デザイン会社を運営しながら、大阪や東京でギャラリーを展開する池田敦さんが、台湾でイラストレーター&作家さんの作品や商品を出展している様子がタイムラインに流れてきました。
思い出すのは僕が雑誌の編集をしていた頃に、イラストレーターさんに記事の挿絵の依頼をしていた時のこと。多くのイラストレーターさんたちは、イラストだけの仕事で食べていくことはできず、アルバイトを掛け持ちされていました。
食べていくのは難しいと思っていた世界に、池田さんは精力的に寄り添っているように感じた上、台湾でも出展? どんな流れでそこに行き着いたんですか? というわけで、池田さんにいろいろ聞かせていただきました。
まずは、なぜイラストレーター&作家さんの作品を世に出すお手伝いをしているのか、その原点を探ります。(インタビュー/狩野哲也 @kanotetsuyajp)
大阪にギャラリーをつくった理由
ーそもそも池田さんのキャリアのスタートはグラフィックデザイナーでしたよね?
G_GRAPHICS INC.の創業メンバーである僕と阪口と松木は、もともとグラフィックデザイナーだったんです。阪口は今もデザインをやっていて、松木はギャラリー運営を経て、現在は国内外のイベントを担当。僕はデザイン、ギャラリー、イベントと全体を統括的に見ています。
ーどういうきっかけでデザイン事務所からギャラリーが生まれたんでしたっけ?
大阪市の中之島公園が見える天神橋北詰に事務所をつくった頃、専門学校で一緒だったイラストレーター・トヨクラタケルさんと仲良くなり。
実は、イラストレーションの仕事の9割ぐらいは東京からの仕事だと聞いて、自分たちの活動する関西がそういう状況なんだと初めて知りました。
でも、まわりのデザイナーさんたちは徹夜してでも仕事していて、自分で仕事に使うイラストも描いたりと、めっちゃ忙しそうにしてるじゃないですか。
逆に、まわりのイラストレーターさんは東京からの仕事をしていたり。多くの人はイラストレーションの依頼すらないっていう状況があり。それって、なんだか意味がわからんなぁと思ったんです。
そこでまず、デザイナーさんやイラストレーターさんたちをつなぎあわせれば、仕事も回り、経済的にも潤いながら、デザイナーの抱える仕事量の問題やクオリティも高めていけるのではと考えました。
結果的に自分たちも、その環境とともにレベルアップしていければとの思いもありました。そこで、デザイナーさんの多い中之島西側の西区・土佐堀に移転。デザイン会社併設のondo galleryをつくったのが約6年ほど前です。

でも、数年続けていく中で、あれ? デザイナーさんもイラストレーターさんも、案外つながっていかないなと感じ始めました。
ーえ? そうなんですか。いろいろつながっていってるイメージがありましたが。
はい。少しづつですが、確かに周りの方々の中に仕事は生まれてきているのですが。取り巻く状況を、大きく変えるというところまではまだまだいっていないですね。
理想としてはギャラリーでの発信を通し、周りの方々にお仕事の関係性はもちろん。企業・メーカーさんからの依頼など、もっと想定外の動きが数多く起こってくるかなと思っていたんです。
僕らのやり方がまずいのか、そもそも予算がないのか、思っていたほどの波及効果は出ていないなぁという印象です。大阪においては、本来イラストレーションの仕事が多い雑誌などの媒体の減少も響いてるなぁと感じています。
そう思うと、大阪だけにこだわってても状況は変えられないので。大阪→東京までの道筋をつくることを考え始めました。東京にも拠点をつくり、関西。そして地方からの流れもつなげていければどうだろうと考えました。
あと、やっぱり仕事は人間関係である程度培われていきますよね。そう考えると、たった一回の展示で築けることって限られています。だから、繰り返し発信できるベースキャンプのような場所が必須だなと思ったんです。
東京にギャラリーをオープン
東京・清澄白河に1年半ほど前にギャラリーをオープン。STAY&EXHIBITION(作家が泊まれる+展示できる)というコンセプトを掲げました。ギャラリースタッフが1名、アルバイトスタッフとして2名、合計3名。ここに、2019年1月よりマネージャーの松木が加わることとなりました。
やっぱり、地方から東京に行こうと思うと移動費+宿泊費+滞在費など、めっちゃかかるじゃないですか。だから、シャワーやキッチン、そしてエアーベッド+寝袋を置き、最低限寝泊まりできるようにしています。泊まりながら展示できる機能を持たせ、できるだけ負担を減らし、条件をフラットにしていくことで、地方の人も同じ土俵で動ける状況をつくろうと思いました。
ー作家さんが展示費用を出すスタイルですか?
基本的にはレンタルでの使用はやってなくて、展示してもらったものの売り上げを割るという形でやっている、いわゆる企画ギャラリーなんです。
ーストイックですね。売れないと0円?
0円です。人件費や家賃なども考えるとマイナスですよね。ここ最近は、デザイン会社としてのデザイン仕事とは独立採算にしていて、基本ギャラリーだけで回せるようになんとかもっていっている感じですね。
ギャラリーの外にも展開
数年ギャラリー運営に携わってみて、改めてギャラリーって閉鎖的やなと感じたんです。たしかにギャラリーってイメージ的にも、どうしても敷居が高いからフラッと遊びに行こうとなかなかならないんですよね。
ー確かに僕の場合はギャラリーに行くのはめっちゃ緊張します。肥後橋のCaloさんや中津のiTohenさんのように、軽食できるとか他の目的もないと行きづらいですね。
そうそう。そういうのがあってようやく接点ができてくるという事もありますよね。なので展示作品と連動し、作品集をつくって本屋さんにも流通させたり、作品をスカーフなどテキスタイル商品に展開、ファッションアイテムとして流通させるなど、より広い方々に届けていくことを試みていきました。
ー百貨店でもイベントをされていましたね。
そうですね。ギャラリーでの一度の展示で100~200人程度の来場者が平均なんですけども。よりたくさんの方との接点を増やすために百貨店とか、ギャラリーから外にも出てイベントを開催する流れをつくっていきました。
わかりやすい例で言えば、阪急百貨店でやった子ども向けのイベントなんですが、動物をテーマに企画してほしいという依頼で、こういったものを企画しました。
子どもとイラストレーター&作家さんとの接点は、ギャラリーの中だけではなかなか難しいじゃないですか。百貨店には、日常的に何万人のお客さんが来ているので、ギャラリーと比べ密度は薄いかもしれないけれど、ギャラリーの中だけでやっていたら届かない層に届けられるなぁという手ごたえがありました。イラストレーター&作家さんを知るきっかけの一つになればいいなと考えています。
徳島の学校跡でイベントを開催
ーこないだ徳島でもイベントをされていましたね。
エミールさんという元学校だったスペースを借り切ってイベントを開催したんです。
大阪や東京でイベントをすると、どうしても情報がまぎれてしまうんですけど。地方って都市部に比べ情報が多くないので、やり方によってはしっかり情報は広がっていくと感じています。結果的にイベント期間中、3000人の方が来てくれました。
ー3000人! すごいですね。
徳島で雑貨屋をされているcue!の青木さんという方に、コーディネーターとして入ってもらいました。開催場所の相談に乗ってもらったり、徳島のみなさんにお声がけしてもらったりと。徳島の信頼できる方と一緒に動けたことが、かなり大きかったと思います。
あと、プレイベントとして、イベント開催前に10日ほど参加作家さんの展示を市内の6店舗さんに協力いただき、開催できたのもすごく大きかったですね。お店さんで知ったという方が本当に多かったんです。
告知は、徳島のタウン誌に掲載してもらったり、SNSなどでもコツコツ情報を広げていきました。全体の売り上げは●万円ぐらいかなぁ。
ー●万円! すごい!
といっても、会場費に運営費、交通費、装飾関係や告知物などもつくったりしているから、うちとしては実はそんなに利益はないんですけど、すごくいい経験になりましたね。
それより、徳島市の中心地から二駅ぐらい離れた場所でも3000人の方が来てくれ、みんなが動けるだけの売り上げも上がるとひとつの自信になりました。
ーけっこうな投資だけど、いい経験値を積んではりますね。
面白い人たちと面白いことを。覚悟を決め、まっすぐにやりきったら、しっかりと人って動いて下さるんだなと思いました。
ー今後も続けられますか?
年1回くらいのペースで開催したいです。「2回目いつですか?」ってすごい聞かれるんですよ。待ってくれている人もいるし。
イラストレーター&作家さん。また、フードやショップの方たちが徳島内外から50組ぐらい参加してくれたんですが、みんな仲良くなるんです。そこでつながりや仕事が生まれたりとか。
だから大阪のギャラリーだけでやろうとしていたことが、徳島でゆるやかに形になっていたり。
徳島って藍染めの産地なんですが、東京のイラストレーターさんが藍染めでプロダクトつくらへんかという話なんかもあって、それってすごく面白いコラボレーションやと思って。
一回で終わるとそれで終わってしまうので、続けていくことで関係性もより絡み合っていくというか。広く言えば、それも僕らが取り組んでいきたいギャラリー活動なんだと考えています。
くらしごと市から台湾へ
ー徳島で開催されたイベントは「くらしごと市」というネーミングなんですね。
そもそも作品って、くらしを豊かにしてくれるものであるし、もっと、くらしに根づいたものとして発信していきたいと考えています。服飾品、雑貨、フードなんかともフラットに並ぶ中、たくさんの方にもっとフラットに捉えてもらえればいいなと考えています。
そこで「くらし」を掲げたイベント名をつけました。そして、それをまっすぐに営みにする方々と一緒に動いていきたいということで「しごと」というワードも含まれています。
ー什器や作品の搬入とかたいへんそうですね。
そのへんもさぐりさぐりですけどね。僕はペーパードライバーなんで。荷物は赤帽さんに頼んだりしていますね。徳島も行きは松木が赤帽さんの助手席に座って、帰りは僕が赤帽さんの隣に座って帰りました(笑)
ー台湾にも最近行かれてましたね。
12月7日(2018年)から台北でイベントに参加させてもらったんですけど、すごく評判が良かったですね。
50組中2組だけ日本人でした。「シェイシェイ」と「ニーハオ」しかしゃべれないのに接客したんですよ。
もともと台湾の人って日本が好きというのもあるんですけど、いいものはいいという感じでちゃんと評価し、お金を払ってくれるんですよ。そういう点で、特に台北の印象は、なんだか東京っぽい感じでしたね。
一般の方はもちろん。セレクトショップの方々や百貨店のバイヤーさんとか含め、たくさんの台湾の人が結構来てくれました。ondoセレクトで、作品や商品を取引したいとか結構そういう前向きなお話をたくさんいただいて。
ー日本の商品は売れました?
トータルで10日間で●万ぐらい売れたんですよ。
ーえ! 日本円でですか?
日本円です。イラストレーター&作家さんから預かった作品& 商品も多かったので、みなさんへのお支払い。それに、交通費や宿泊費や出店費用などでトントンぐらいにはなっちゃっているんですけど。
ーうんうん。
だけど、そこからプラスαで取引の話をいろいろもらっているので、投資した価値はあるかなという気がしていて。新しい市場の可能性として、今後も広げていきたいと思っています。
東京へ行くのに新幹線で往復3万円ぐらいかかりますが、時期によっては、台湾へは往復で2万円もかからなかったりするんです。そう考えると、もう距離なんてあまり関係ないし。うまくつながっていけばちゃんとビジネスになっていくのではと考えています。
事業の三本柱
ー組織の形態や働き方もだいぶ変わったんじゃないですか?
デザイン、ギャラリー、イベントという三本柱がありまして、
ーギャラリーとイベントは別のくくりなんですね。
そうなんです。それぞれの事業ごとに売り上げをあげていくという流れにシフトしていっていて、もともと利益になっていなかったイベント事業の担当に松木が入り、そこを事業化していこうとしています。
正直、デザインだけやっているほうが売り上げにはつながるんですけどね。ギャラリー事業のほうは、今後プロダクトにも力を入れていきたいと考えています。今は、仕事のかたちを探っている感じですね。
デザインの仕事って企業やメーカー、行政などのいわゆるクライアントさんからさまざまな悩みや課題を聞いて、それに応えるかたちで費用をいただいているわけじゃないですか。
本当にかなりの熱量と時間を費やし、その答えを見つけていくのですが。そのエネルギーの一部でも自分たちにも向けていけないかなと考え始めています。
例えば、ondo galleryより発行したイラストレーター・てらおかなつみさんの作品集。とても発信力のある方で、Twitterのフォロワーが4万人以上と、とても発信力のある方なんです。
ー4万人! なんかすごい時代ですね。それだけフォロワーの方がいれば、本をつくっても売り上げがある程度見込めそうですね。
いま発売から2ヶ月で、だいたい800冊くらい売れてますね。今、追加で1000冊分を増刷しています。
ー2ヶ月で800冊売るなんて、憧れます。
いま、自分たちで卸とかの動きもはじめていて、各地の蔦屋書店とか、個人経営のセレクト本屋さんなどにも取り扱ってもらっているのですが、今後、そのサイクルをうまくつくっていければと思っています。
ーいい流れですね。
売っていくのは、まだまだ課題なんですけどね。
ーondoに関わったことで変わっていった作家さんとかおられますか?
網代幸介さんという作家さんがいるんですが、出会った当初は、まだまだ無名だったんですが。妄想とか空想で世界を広げ、絵を描く人なんですが、7年ぐらい前に出会いました。
ほんとにストイックに作品に向かわれていて、立体もつくるし、動画もつくるし、そこにつける音楽なんかもつくってしまう方です。東京の方なんですが、大阪のギャラリーオープン当初から、コツコツと大阪で発表し続けていたら、ここ数年東京でもきちんと認知され、今はなかなか展示もご一緒できないくらいの人気者になりました。
ー逆輸入ですね。
この前は小学館から絵本も出たんです。
発信は苦手なようですが、作品への向き合い方や世界観がほんと素敵で。その上、人との接し方なんかも、ほんとまっすぐで素敵なんですよね。そういう人がきちんと評価されていけばいいなと思っています。
ーコンサルというか、普段、デザインの仕事でされているような関係ですね。
やっていることは世の中に届けていく仕事じゃないですか。共感できる人たちを世界につなげていくこと。企業やメーカーさんなど、いわゆるクライアントに対してやっていることと。イラストレーター&作家さんに対してやっていることって、意識的にはほんと大きくは変わらないですよね。
真摯に、まっすぐに。
ー池田さんの話の中には、まっすぐに届けるという言葉がキーワードのように何度も出てきますね。
大事にしていますね。東京に場所をつくり、まず感じたのは東京のイラストレーター&作家さんはスキル的にもレベルが高い方が多く、それに伴って意識も高いですね。見せ方や発信しているメッセージなどにも熱量を感じることが多いし、とても刺激になります。
同時に、すごくメディアに左右される街だなぁとも感じています。雑誌やテレビに取り上げられた。SNSでの影響力が強いなど。地方に比べ、だれかの評価に価値を見出しすぎるところもあるなぁっと感じています。時に作品の良さ・人柄などの本質や価値より、発信のテクニックの方が重視される傾向もあるなぁと感じています。
ーとんがっていると目立つ的な、強い言葉を使ってバズる様子は時々見かけますね。
そのあたりには少し違和感を感じていて。本質や価値にきちんと向き合いながら、真摯にやる人もきちんと評価される流れをつくりたいなあと考えています。もちろん、発信や影響力の大切さを理解して上でですけどね。だからこそ自分たち自身、もっと発信力を身につけないとと課題も感じています。
ーわかります! いろいろお話いただきありがとうございました。
ほかにもここでは書けないようなことを明け透けにお話してくださったのが印象的でした。
今後、池田敦さんをサロン文化大学のゲストにお迎えします。4月を予定していますが、日程や場所などの詳細は少々お待ちください。以下がイベント告知ページになります。

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