白石島での社員研修 チームワークの養成とオリエンテーリング


白石島では、毎年春にオリエンテーリング大会が開催されている。30年以上続いている恒例行事で、数年前には全国大会も開かれた。島全体が地図に収まる構成が特徴的で「歩いて行ける場所は全て競技場」という、閉鎖空間としての島を上手く活用していると評判だ。

私も子どもの頃から参加しているが、島の住民にとっては慣れ親しんだ場所なので、地図の理解は早いしルートも熟知している。しかし、それだけのアドバンテージがあっても、本職の競技者には太刀打ち出来ない。その一方で、ハイキング気分でコミュニケーションを取りながら家族で散策したりもできる。なかなか、奥の深い競技である。

さて、この「白石島でのオリエンテーリング」を、社員研修に活用している会社が二つある。今日は、その一つの会社の方に取材を申し込んだ。取材させていただいたのは「きのこグループ」という、総合医療福祉施設の方だ。

自分たちが住んでいる島の魅力とか良いところとか、自分たちでもわかっているようで、わかっていない。島へ来てくださっているお客さんに直接尋ねると、ホントに、思いも寄らない理由がポンと出てくることもある。

この会社は、7年間続けて企業研修のために白石島でオリエンテーリングをしている。それだけ続けているのなら明確な理由があるのだろうと思い、是非ともそれを知りたくなったのだ。

取材を申し込んだといっても、事前にアポを取るのが難しかったため、社員研修の当日、港の前を通過する時に取材を申し込み、帰りの船の中でお話を伺うという方法だったのだけれど。帰りの船旅は約45分。その中から30分ほど時間を頂いた。

きのこグループでは、三ヶ月の研修期間があるのだが、最初の数年間は4月下旬に島でのプログラムを行なっていたそうだ。しかし、4,5年前から4月上旬のなるべく早い時期にと変更することになった。

その理由は「島の厳しい環境でオリエンテーリングという競技を行うことで、チームワーク、信頼関係が構築される。それが早い時期に萌芽することで、研修全体にも影響する」というものだった。

『そんなに厳しいコースだっただろうか?』と、一瞬疑問を感じたが、子供の頃から島の野山で遊んでいた自分たちがオリエンテーリングをするのと、島の地理も何も知らない、オリエンテーリングもしたことがない人とは感覚が異なるのも当然だろうと思い直した。
チームでオリエンテーリングをするということは、目的を共有し、達成方法を共に考え、共に実行するということだ。意見を出し合い、協力し、体力の劣るものがいても切り捨てることはできないので支え合い、ゴールを目指す。

競技が終わった後には、自然と関係性が良くなり、チームの雰囲気も変わるのだという。
「行きの船の中と、帰りの船の中で、顔つきが変化しているのがわかります」と、断言するくらいの変化があるそうだ。

また、各事業所への配属も、研修中に分けられたチーム単位で行われる。研修中に培ったチームワーク、コミュニケーションがあることで、身近に相談できる、苦楽を共にした人たち、すなわち「同期」が存在することになる。その背景があるからこそ、仕事も上手くいくし、困難なことがあっても乗り越えることができる。

離職率の高い介護業界において、きのこグループでは離職者がほとんどいないそうだ。優れたマネジメント、研修カリキュラムと、その効果があってこその結果なのだろう。

島をプラットフォームにして、素晴らしい成果を上げている企業がある一方で、島の住民同士でちょっとしたトラブルや不仲が原因で、角を突き合わせるようなこともある。不思議なような、情けないような気もするが、今回取材した事を肝に銘じてどこかで活かしたいものだ。

書き手:
天野直 瀬戸内海の白石島(人口六百数十人の逆境集落)で仕事してます。 主に桟橋を管理しながら生きています。最近は野菜の仲買なども。

Twitter: sunamn
web:白石島廻漕店